幕間 (後篇)
*後半、腐描写がいっぱいです。
そういうのが おイヤな方は全力で避けてください。
いつもの松田ハイツで目が覚めたら
ブッダ様が 小さくて幼いシッダールタ王子になっていたという、
何とも とんだことだったのは、
数年に一度という“皆既月食”の晩の翌日のこと。
すったもんだに鳧がつき、
慌てた反動で ちょいと呆けた朝になったが、
それでも刻を経るうち少しずつ落ち着いて。
昼を回るころには、
『台風が来る前に コスモスの群生を観に行こう。』
『そうだね、早くしないと時期を越してしまいかねない。』
そんなプランが立ったほど、
喉元過ぎれば、もとえ、
前向き この上なしでもあらせられ。(苦笑)
ご近所だとどこがいいのかなと
スマホやPCを駆使し、
見ごたえのあるお花畑や自然公園を検索して午後を過ごすうち。
まだまだ風も穏やかなままの立川は、
優しい茜が馴染んだ空気がほのかな寂寥を誘う
穏やかな黄昏どきを経てから、
ひそやかに灯された灯明がその炎を萎れさせるように、
それは静かに宵を迎えて。
「暗くなるのが早くなったよね。」
「うん。」
陽が姿を隠せば、そのまま地表の温みも奪われる。
はやばやと降り立った夜陰の幕のどこか遠く、
風を切って駆けてゆく乗用車の走行音が、その響きだけを届かせて。
テレビだって点けていたし、ご近所の何でもない生活音も聞こえるのに、
さすがは秋の宵で、そんな中でも いやに際立って聞こえたものだから。
何とはなく その音が通り過ぎるのを
見えもしないものなのに あっちからこっちと視線で追ってしまってから、
見合わせた視線で
ああ静かだね、そうだね、と
小さく笑い合ってしまった最聖のお二人だったりもして。
天界の荘厳な静けさとは一味違って、
どこかに こそりとざわついた肌触りが潜むような、
そんな感触のする夜気なのがくすぐったくて。
数多いる生命たちのそんな気配の中へ、
ちゃっかりと紛れ込めている自分たちなのも、
稚気からながら何となく嬉しくて…vv
「…そろそろ寝よっか。」
「うん。」
テレビも やや大人のドラマやニュース特集の時間帯。
イエスもPCを開いていたワケでもなかったからか、
寝支度しよっか?と自分から声を掛けて来たほど。
ブッダの側にも否やはなく、
卓袱台の上を片付ければ、イエスはそのまま押し入れへと向かう。
何てことない流れのようだが、
実は微妙に
お互い どこかぎこちなかったりして
マグカップを盆に乗せる手がやや堅かったブッダであり、
何てことない所作なのに ごとりと倒してしまわぬか、
常になく慎重になってたり。
片や、襖を思いの外 勢いよく開けてしまい、
ぱしんと音が立ちそうだったの、あわわと掴まえて
コト無きを得たイエスだったりと。
相手の緊張に気づけないほどの いっぱいいっぱい、
どこかぎくしゃくしているのが、いっそ微笑ましいほどで。
だってまだまだ不慣れなのだもの、
そんなの しょうがないじゃない。////////
相手が何か言い出してくれないかなと ちらちら見ちゃったりする。
今の目先て そのまま進めていいって目配せだよねなんて
おどおどと解釈してみたりする。
その解釈に、あわわ、うん良いよ、そうだよと
慌てて足取り合わせようとして
ドキドキする内心で 微妙なたたらを踏みかけたりしつつと。
どっちがどうとも言えないほどに、
まだまだ初々しいお二人なのだ、実情は。
「明かり消すよ〜。」
「は〜い。」
二組の布団は敷くと六畳間が一杯になる。
何となく横になったり座ったり、枕元へスマホをおいて充電器をセットしたり、
そうそうトイレへと立って行った片やの足元が 目の先を通り過ぎたの、
ああ綺麗なくるぶしだなぁなんて、ついつい目で追ってみたりして。
ちょっと手持ち無沙汰なままになったの見計らい、
じゃあ明かり消すねと、どちらかが電灯から下がる紐を引けば、
部屋の中が一瞬、暗転してしまうけど。
町なかの夜陰なんて高が知れているというもので
室内に至っては どこかに何かの明るみがあるから、
すぐにも眸が慣れて来て、
窓やカーテンの輪郭や、家具の縁取りが視野の中へ浮かび上がる。
「…ねえ。」
ぼんやりながら白く浮かぶ夜具の上、
隣り合う相手のお顔もすぐに見つかり、
こちらを向いてるイエスだと気がついたブッダ様。
う〜んと しばし迷ってから、ちょっと訊いてみたのが、
「もしかしてイエス、小さくなってた私のこと、
今日のいろんな端々で思い出してなかった?」
「え?////////」
ぎくりとした気配があって、
それでも“何のこと?”という訊き返しの声を出した彼だったのへ。
そのくらいはねと柔らかく微笑い、
“今だって何となく、
すぐには話しかけて来ないでじいと見やってた様子が、
いつもとは違う感じで、
何かしら思いに耽ってたことを忍ばせたし。”
そこは愛しいお人のことだけに、
観察眼も鋭くなろう如来様であり。
そのまま やはり鋭い洞察を働かせ、
察しをつけたまでらしく。
「あのその、うん。
ちょっとだけだけどもね。///////」
ありゃ見透かされちゃってたかと、
イエスも言い逃れまではしないで“是”と認め、
「だって、そりゃあ可愛かったものvv」
上背があって、それなりに充実した体躯をしておいでの
今のブッダに比すれば、
あまりにちょこんと それは小さくて。
寸の詰まった腕や脚は頼りなく、
羽二重なんかのぎゅうひ餅みたいな やわやわの肉づきに、
それをそのまま伝える ふかふかの肌をしていて。
今より大きいんじゃないかってほど うるうるしていた深色の双眸も、
そこは変わらぬ ぷるんとした口許も、
あどけなさが滲んでの そりゃあ愛らしい印象で。
「まだ幼いのに しっかと気品も持ち合わす皇子様が、
なのに どうしようかなんて、
困った困ったって見上げて来るんだもの。
ましてや、紛うことなくブッダなんだから、
可愛いなぁ可憐だなぁって うっとりしなくてどうするのvv」
「うう…。///////」
アガペー満タンの博愛主義者でなくたって、
うあ、どうしよーと見惚れた愛らしさだったものと。
それこそ手放しの喜色満面で萌えを並べるイエスの屈託のなさへ、
ありゃりゃと気迫負け(?)しかかる釈迦牟尼様であり。
しかもしかも、
「でもネ、言ったでしょ? 私、今のブッダがいいって。」
「……あ。//////」
思いがけない事態に混乱状態にあったとはいえ、
選りにも選って、
イエスが流れ星にお願いしたんじゃないかという
突拍子もない疑念を言い立てたブッダだったのへ、
『つか、私は
いつものブッダじゃないと甘えられないからヤダ。』
『う……、そうなんだ。///////』
それもどうだかという理由つき、
きっぱり断言していたイエスだったのは確かでもあって。
どさくさ紛れなそれ というよりも、
むしろ あんな状況だったからこそ
嘘のない言い分だったとも言えるのではなかろうか。
そんな経緯を話題に持ち出したことで、
そこのところを もう一回確かめ直してみたようなものかも知れぬ。
「〜〜〜。//////////」
とんだ薮蛇になったものだから、
うわわっと赤くなってしまった慎み深いブッダ様。
とはいえど、
甘えたさんなことへさえ、
どんなもんだいと胸を張るよなイエスなのへは、
“可愛いなぁ…。/////////”
何ともしみじみした苦笑が洩れてやまなくて。
ついのこととて くふんと微笑った気配が、静かな中に伝わったようで。
それへだろう“なぁに?”という身じろぎ、
布団のカバーが動いたのがやっぱり届いたものだから、
「…イエスは私へ甘えてるっていつも言うけど、
私のほうこそ、いっぱい甘えさせてもらってるんだよ?」
時に 困ったよぉと縋られるまま引っ張り回されたり、
はたまた、甘えられるのへ ややハードル下げて受け入れる格好で、
こちらもこちらで相当に緩んでみせたりと。
もしかして厳しく対処せねばいけないところも多々あったろうあれこれへ、
通り一辺倒な考えしか持ち出さないよな、頑迷なままじゃあいられなかったのは、
イエスが相手であるがゆえ、ついつい出てしまう甘やかしあってのこと。
そしてそれが、ブッダへも柔軟な考え方というもの思い出させてくれており。
教祖開祖としては貫かねばならないものもあるし、
そこはぶれないとするための、確固たる意志も健在なれど。
“…うん、いい傾向だと思うんだ。”
たまには肩から力を抜きなよと、
何でもかんでも補完しようとする、律義が過ぎる勤勉さへも、
やんわりとブレーキを掛けてくれていた気がする釈迦牟尼様。
「え〜? そうかなぁ。」
相変わらず、ご当人には思い当たりがまるきりないようで、
どれがそうなのか、
う〜ん…と思い出そうと仕掛かったイエスだったれど。
そんな屈託のない様子を、
慈しむよに眺めておいでの和んだ気配が伝わって来て。
「も〜〜〜っ、
今“お兄ちゃんモード”になってるでしょー。///////」
甘えさせてもらってると言っておきながら、
慈愛の眼差しで見守ってるなんて矛盾してないかと。
この、人の子にして懐の尋が半端ではない存在から、
甘えてる凭れてるなんて言われても、
自身にそんな泰然とした何かなんてのへの自覚はやはりなく。
なので、からかったなぁと むむうと感じたイエス。
天井のほうを見上げる姿勢で横になっていたものが、
もうもう・こらーという 軽い憤慨の気勢のまま、
相方のいる側へと向いて手を延べれば、
「あ…。////////」
くどいようだが そこは六畳間なだけに、
まだ布団の中へともぐり込んでまではいなかった相手へ
あっさり届いて 二の腕へと至ってる。
まさかに本気の喧嘩腰で掴みかかった訳でなし、
むしろ 当たりようが強すぎなかったかに慌てかかったほど。
そして、当のブッダはといえば、
「えっと、//////////」
冗談を言わない訳ではないけれど、
それでも生真面目が過ぎる御仁ゆえ。
なので、よいしょするつもりの…とかいう
いい加減な一言なんかじゃあなかったワケで。
一片の罪悪感も引け目もないまま、
逃げもしない眸がうるりと見返したのへ、
“う…。///////”
イエスの側が呑まれてしまいかけるのも、いつものことで。
ハッとしたそのまま、
ああ なんて綺麗な…と見惚れておれば。
「…いえす。//////」
細い眉を切なげに下げ、
くぅんと聞こえて来そうなお顔になってしまう彼であり、
ああ もしかしてこれが、
ブッダの側からも甘えてるってのなのかなぁ、と
頭の片隅にて思いつつ、
自分もまだ肩までは引き上げてはいなかった掛け布団の
その端っこまで にじにじと身を寄せてゆき、
いぃい?
もうくっつくという間際、かくりと小首を傾げて尋ねれば、
うんと素直に頷くのみならず、
ますますと眉を寄せてしまうのが。
ああ、そんなにも求められての好かれているのかと、
イエスの胸元を温かくくすぐる。
ひじをついて身を浮かせ、
重くないよう加減をしつつも そろりとのしかかれば。
さすがに含羞みも出てだろう、
ほぉ…と やや震え気味の細い息をつく気配が聞こえて来る。
ただ組み敷くようにして じっと総身を重ねているだけでもドキドキし、
ややあって、ほわりと感じるのは甘い杏の香りとそれから、
「…いじわるー。//////」
「焦らしてるんじゃないんだってばvv」
何もしてくれないのは、こっちから言い出さないからかと思うたか、
それともそれとも、
恥ずかしいことをわざと言わせるお仕置きかとの誤解を呼んだか。
背中へ回された手が、イエスのシャツをきゅうと掴むのが、
含羞みと待ち切れなさと、
少しばかり大胆になってる誰かさんの心情を伝えてくれて。
「ん…。///////」
頬と頬とが今しも触れるという手前、
互いの熱がふわりくっついて一つになる瞬間が好き。
ちょっぴり ちりりと毛羽だっての熱くって、
それを実感するのももどかしく、
すぐそこに待つしっとりした唇へ、
最初は柔らかに、それから下と上とへ順番に吸いつけば。
はあと甘い吐息がこぼれて来て、
おずおずとながらも同じように迎えてくれるのが何とも愛おしい。
ぷるんと瑞々しい感触は、どれほど触れても足りなくて。
深く合わすと ざらりとした熱の固まりにちろりと触れて。
「…っ。//////」
ひくりと逃げかかるの、同じ舌先でそおと撫ぜれば、
なめらかな歯の縁が当たるのが怖いか、
それでもギュッと目を閉じたまま、
懸命に合わせようとしてくれる健気さが、
可愛くて嬉しくて、イエスにはたまらない。
恥ずかしいからか頬の熱が上がり、
はさりさわさわ、こちらの肩へも乗り上がって覆うほどの勢いで、
ブッダのつややかな髪が一気にほどける。
気品に満ちた 貞淑な如来様が、
ちょっぴり妖冶で でも恥ずかしがり屋な、
不慣れでたどたどしい存在となり、
こちらの居処まで おずおずと降りて来てくれる。
“大事にしなきゃあ、罰が当たるね。//////”
明かりがなくとも仄かに浮き上がる白い肌。
それが少しずつ、内から少しずつ緋に染まる。
敷布のうえ、指先を絡め合うよにして縫いつけた手が熱い。
せぐり上げるような息からも甘い熱。
身じろぎも慎ましやかなのは、まだ含羞みが勝るからで。
でも、どんなに追い詰められても、
逃げ出そうとはしない彼なのが じんと嬉しい。
みぞおちのまわりや二の腕の裏、
耳の真下から喉元へと唇をすべらせながら、
腿の合わさりへと手のひらを差し入れて。
あ。//////
ここ、まだダメ?
う、うん。//////
じゃあネ、ここは?
や…ん。//////
ふふふ、やーらかいとこは感じやすい?
もう、意地悪。///////
気持ちいいんでしょ?
そお、だけどぉ…。////////
一方的に言わせるなんてやっぱ意地悪だと、
自分の掠れた声へも頬を染め、
唇を咬みしめかかったブッダだったが、
「私も凄くキモチイイよ?」
「…え?//////」
淫蕩な悦の波が腹の内側へ徐々に高まってゆくのと同じほど、
ううん、もっと甘くてじわりと熱く、
胸がぎゅぎゅうと、それ以上なく締めつけられる。
組み敷いた彼が耐え切れずに身をよじるたびに背条を駆け抜ける
蜜のよに甘い刺激の灼熱に負けないくらい。
切なくて、泣きたくなるほど嬉しい気持ちが、胸底を振り絞る。
ただ快楽を得たいのじゃあなくて、
キミをこそ欲しいと思う渇きを、キミから満たされる喜び。
これ以上はなく高貴で神々しい尊い人を、
ただ慕うだけでは飽き足りなくなった罰当たりなのに、
慣れない微熱にとろけそうになりながら、
何がどうなるか、怖くてたまらないのだろに
それでも逃げずに受け止めてくれる、
それはそれは強い人で
「………………あ。/////////」
どうしても我慢してしまう性は抜けぬか、
いやさ、息を詰めて限界までこらえるのは誰しものことなのか。
組み敷いていた柔らかな肢体を包む肌が、
うっすらと汗ばんだまま ひくりと強くわなないて。
「〜〜っ。/////」
溺れぬように、すがるように、
こちらの背へと回されていた手が、
一瞬迷ってから、するすると引き取られ。
そのまま両手がかりで自分の口許を封じるのが痛々しい。
どんな苦難や痛みでも、歯を食いしばって耐え抜く人が、
万が一にも悲鳴が洩れてはと案じてのこと、
深い愛咬の末だというに、そんな哀れな策を取る。
「……っ!!」
高まりが極まっての末、
ギリギリに高められた限界が
おさえきれずに弾けてほとびる。
取り乱すことが恥ずかしい以上に、
何をしていてのそんな蜜声を上げたのかを
余所様に感づかれるのが
堪らなく恥ずかしい彼であるようで。
とはいえ、
その身を駆け抜ける強烈な刺激は、
乱れる呼吸さえ押さえ込み、耐えに耐えた末の絶頂と
限界を迎えてはちきれた悦の熱の解放とが生み出す激流で。
「〜〜〜っ!!」
それこそがゴールではないかと
身をゆだねて堪能するよな余裕なぞ、まだまだ体得しておらず。
声の限りに叫ぶことで、何とか打ち消し合えもしようそれだが、
小さなアパートでは外聞もあってのこと、
そうそう大騒ぎは出来ないし、
何よりブッダ自身が、
そんな真似だけは 容認出来ぬとしているがため。
「〜〜〜〜っ。/////////」
意識ごと攫われそうな強烈な快楽に襲われながらも、
ぎりぎり喉奥にて鋭い息を張り上げて、
総身を蹂躙する嵐を耐え抜く彼で。
本能的なそれだろう、
かかとで敷布を蹴るようにし ずり上がろうとする身を、
せめて包み込むように懐ろへすっぽりと抱きしめて、
イエスも同じ嵐をやり過ごす。
ただただ声を封じて耐える彼なのを、
それしか出来ない、してあげられない身が歯痒いと、
かすかに眉を寄せつつも、ぎゅうと力いっぱい抱きしめてやって。
「…大丈夫だからね、大丈夫。」
それしか言えないのが やはり歯痒くて。
胸が切なくなるまま息を殺して刻を待っておれば、
「………。////////」
大丈夫と彼からも言いたいか、
こちらの懐ろに押しつけられる形のいい額が
すりすりと懐くような所作を見せ。
ああ それだけで感極まってしまいそうだと、
口ひげも歪むほど唇かみしめた、秋の更夜の物陰を。
今はまだクリアな天穹から、
今宵は真珠色の望月が何も言わず見下ろしていた。
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*台風19号が来る前、
不思議とギリギリまであっけらかんと晴れてた先週のお話です。
月食の翌日と日を限ったくせに、
こうまでずれ込もうとは…ラブラブシーン恐るべし。(おいおい)
めーるふぉーむvv


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